おはようございます。アドラー心理に基づく勇気づけの研修(外部研修も)とカウンセリングを行う ヒューマン・ギルド の岩井俊憲です。
私が6日(月)~8日(水)と宿泊研修のためヒューマン・ギルドを留守にしている間に取材の申し込みがあったようです。
『嫌われる勇気』が発売されてアドラー心理学がブームになっているが、『嫌われる勇気』の中でアドラー自身が言っていないことがあたかもアドラー心理学のように語られ世間に流れているが、ヒューマン・ギルドではそういったことにどういう立場を取っているのか、そのための取材で、自分が本を出版するにあたり30分から1時間程度、電話で岩井と話を出来ないかという趣旨でした。
私はこういうことは電話で話すことでもないので、丁重にお断りしました。
私は岸見一郎さんが共著者の古賀史健さんと共に書いた『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(共にダイヤモンド社)の8割方には賛同しますが、(1)「トラウマは存在しない」と流布してしまっていること、(2)アドラー心理学をギリシア哲学と同一線上に置いていること、(3)アドラー以外の出典を明らかにしていないこと(例えば「課題の分離」のルーツはアドラーでなく、ヒューマン・ギルドが開発・普及している「愛と勇気づけの親子関係セミナー(SMILE))、には賛同できないでいます。
今日は、この中の(2)「アドラー心理学をギリシア哲学と同一線上に置いていること」について私の見解を示すと共に、アドラー心理学を心理学として扱っている好著『アドラー心理学“実践”講義 ― 幸せに生きる』(向後千春著、技術評論社、1,580円+税)を紹介します。
「アドラーは、心理学者という以前に、ひとりの哲学者であり、その知見を臨床の現場に応用した哲学者である。これがわたしの認識です」(『幸せになる勇気』)
「わたしにとってのアドラー心理学とは、ギリシア哲学と同一線上にある思想であり、哲学です」(『嫌われる勇気』)
この記述を読むと、アドラーが哲学者であり、ギリシア哲学と同一線上にある思想であり、哲学として個人心理学を創始し、広めたことになりますが、本当でしょうか?
私は、ギリシア哲学者でもある岸見さん個人の認識だと思います。
私の理解では、アドラー心理学(アドラーの命名では個人心理学)は、哲学的な要素があるとしても心理学です。
『広辞苑』で「心理学」を引くと、次のように書かれています。
「人の心の働き、もしくは人や動物の行動を研究する学問」
『新・心理学序説』(金子書房)には次のような記述が。
「昔の心理学は、その研究も方法も哲学的、主観的な『心の研究』が主力だったのに対して、今日の心理学は、その研究対象を生活体の行動とし、『行動の科学』と言われる」
アドラー心理学は哲学であるよりも、主に人間の思考・感情・行動の営みを扱う心理学なのです。
◆『嫌われる勇気』によって火がついた「アドラー心理学ブームについて」2014年の3月から6月にかけて24回も書いています。
お時間のある方は気長にお読みください。
3月18日 アドラー心理学ブームについて(1)
3月19日 アドラー心理学ブームについて(2)
3月25日 アドラー心理学ブームについて(3)
3月29日 アドラー心理学ブームについて(4)
3月30日 アドラー心理学ブームについて(5)
3月31日 アドラー心理学ブームについて(6)
4月3日 アドラー心理学ブームについて(7)
4月5日 アドラー心理学ブームについて(8)
4月8日 アドラー心理学ブームについて(9)
4月9日 アドラー心理学ブームについて(10)
4月11日 アドラー心理学ブームについて(11)
4月12日 アドラー心理学ブームについて(12)
4月14日 アドラー心理学ブームについて(13)
4月15日 アドラー心理学ブームについて(14)
4月17日 アドラー心理学ブームについて(15)
4月18日 アドラー心理学ブームについて(16)
4月22日 アドラー心理学ブームについて(17)
4月24日 アドラー心理学ブームについて(18)
4月25日 アドラー心理学ブームについて(19)
4月27日 アドラー心理学ブームについて(20)
5月1日 アドラー心理学ブームについて(21)
5月4日 アドラー心理学ブームについて(22)
5月9日 アドラー心理学ブームについて(23)
6月17日 アドラー心理学ブームについて(24)
前置きがだいぶ長くなってしまいました。
これからが本論です。
アドラー心理学を哲学でもなく自己啓発でもなく心理学に戻す本の紹介です。
『アドラー心理学“実践”講義 ― 幸せに生きる』(向後千春著、技術評論社、1,580円+税)
![]() |
アドラー“実践"講義 幸せに生きる |
| 向後 千春 | |
| 技術評論社 |
この本は、日本人によって書かれたアドラー心理学の本では最も高い評価を与えられるアドラー心理学の入門書でしょう。
早稲田大学のオープンカレッジ中野校での講座『幸福になるための臨床心理学:アドラー心理学の理論と実践』を元にして全体を構成し直したものであるだけに実に読みやすい。
講義に加えてワーク、アドラーの締めの言葉も入っているので、まるで自分が講座に参加しているような気分になります。
アドラー心理学の理論と技法と思想が体系的に網羅されています。
なお、章立ては下記のとおりです。
第1章 私たちは何のために生きているのか
第2章 あなたはなぜそう「行動」するのか ― 目的論
第3章 あなたはなぜ「対人関係」で悩むのか ― 社会統合論
第4章 あなたはなぜそう「認知」するのか ― 仮想論
第5章 あなた全体は誰が動かしているのか ― 全体論
第6章 あなたの人生は誰が決めているのか ― 個人の主体性
第7章 あなた自身を勇気づけるためにはどうすればいいのか ― 勇気づけ
第8章 あなたの生きる「意味」な何か ― ライフタスク
第9章 あなたが幸せに生きるためにはどうすればいいのか ― 共同体感覚
第10章 アドラー心理学はあなたの何を提供するのか
ただ1ついちゃもんをつければ、技法としてライフスタイル分析、ライフタスク、勇気づけ、タテの関係・ヨコの関係が置かれていますが、私はライフタスク、タテの関係・ヨコの関係は技法でないと思います。
それはともあれ、出来るだけ多くの方々がこの本を読み、アドラー心理学を心理学としてしっかりと位置づけていただきたいと念願しています。
