おはようございます。出勤日なのでモードを切り替えた ヒューマン・ギルド の岩井俊憲です。
「あなたに特別に1日25時間が与えられたら、+αの1時間を何に使いますか? ただし、寝ること、仕事をすることは除きます」
あなたならこの問いにどう答えますか?
ある研修で上のように問いかけられたとき、私は「音楽鑑賞か読書をします」と答えました。
ゆったりモードの+αの時間の土曜日に読んだのがこの小説『孤舟』(渡辺淳一著、集英社、1,600円+税)でした。
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孤舟 |
| 渡辺 淳一 | |
| 集英社 |
そもそもは、ある労働組合の副委員長からお勧めいただいておりました。
主人公の大谷威一郎は、大手広告代理店の東亜電広を上席常務執行役員で退いて、バラ色の第2の人生を送るはずでした。
ところが妻や子どもに疎まれ、妻は「主人在宅ストレス症候群」に。
家庭に居場所のない威一郎は、再就職の道も閉ざされ、元の会社に行くに行かれずにいるうちに妻は家出(娘のアパートに同居)。愛犬のコウタロウと共に広い家に取り残されます。
この段階で主人公とほぼ同じ世代の私は、とても嫌な気分になりました。なぜなら、主人公と同じような、大企業の管理者を定年退職をして、家に居場所のない友人が何人もいるからです。
主人公は、家出した妻から銀行の預金通帳を引き取り、そのお金でデート・クラブに登録、小西佐智恵とデートを重ね、家にも招き入れますが、どうということには至りません。
「小西くん」を家に呼び、京都旅行をたくらむ主人公は、妻子が家に突然来たことで予定を急にキャンセル。それを契機に連絡が取れなくなります。
やがて「小西くん」は、結婚予定を告白。主人公の年甲斐もない淡い恋は終わります。
このところは、渡辺淳一ならではの展開です。
母娘が喧嘩をしたことで妻が家に戻ると、主人公が妻の想像以上に自立していることを認められ、料理教室に通う決心を固めます。
最後は、「小西くん」との最後の逢瀬。最後は2人が初めて出会ったホテルのフレンチ・レストランで主人公が大奮発します。
最後に2人は握手をして別れます。
渡辺淳一は、満たされた気分に浸った主人公につぶやかせてこの小説を終えます。
「よし、今日から新しく生きていこう」
どれだけやれるかわからないが、とにかくいまから一歩踏み出してみよう。すぐ駄目になるかもしれないが、まず変わるのだと、威一郎は自分にいいきかせる。
社会的に自立していたように思われていた主人公が、家庭的な側面を含めて真に自立する姿を描いた力作です。
熟年男性およびその予備軍、彼らの配偶者、こういった夫婦にかかわりのある方に特にお勧めします。
ところで、この小説をヒントにして私は、自立の4つの側面として次のことを考えました。
総合的自立=社会的自立+経済的自立+心理的自立+家庭的自立
そして、このことを付け加えておきます。
真の自立は「孤立」でなく、協力し合える素養を持った人のみが達成可能である。
<お目休めコーナー> 我が家の窓辺

